重さに基準があるフライラインと違って、フライロッドの、ラベリングされたライン番手は絶対的なものであって相対的ではない。だから「6番ロッドなみにパワフルな4番」のようなロッドが存在する。でも、自分がもっているロッドの”本当の”パワーくらい、ちゃんと知っていたいのだが。
「十勝を釣る道具」の冒頭でふれているが、市場には、4番ライン指定として販売されているにもかかわらず、先端30フィートが約160グレインの6番ラインにちょうどよいくらいパワフルなロッドがある。よくある話だ。
なぜそんな過小評価がおきるのかというと、ラベリングされたラインナンバーは普遍的な基準から定義された相対的なものではなく、各メーカーによる絶対的なものだからだ。ロッドデザイナーの意志といってもよい。そして、世界のフライフィッシング・インダストリーの旗振り役といえるAFFTA(American FlyFishing Trade Asociation)は、フライロッドのパワーを定義するためのユニバーサルな基準をもうけていない。
パワーだけではない。「高速でソフトなアクションのプログレッシブロッド」。カタログや広告、雑誌などで見かけるこんなスローガンに戸惑う人も少なくないだろう。それってどんなサオだ? ロッドのキャラクターを形容する言葉の曖昧さといったらない。マーケティングタームならなおさらだ。けっして相対的とはいえない。
AFFTAによって定義づけられた(AFFTA最大の功績といえる)フライラインですら、現実的な状況はさほど変わらない。番手ごとのグレインウエイト(ティップ部を除く先端30フィートの重さ)の規定はあるが、”本当の”グレインウエイトを、製品のパッケージなどにわかりやすく明示する義務はないらしい。5番ライン(約140グレイン)として販売されていても、2番手ぶんオーバーウエイトの7wt(約210グレイン)の重さに設計されたラインすら市場にはある。
このような昨今のフライラインと、フライロッドのパワーなどについて興味ぶかい記事を掲載しているロッドメーカーがある。筆者は同社のオーナーでFFI(フライフィッシャーズ・インターナショナル)のMCI(マスター・フライキャスティング・インストラクター)であるカール・マクニールさん。ファイバーグラス・ロッドとフライキ
ャスティングが大好きな、日本のフライアングラーにもよく知られている人物だ(なお、本稿は同社の製品を推薦するものではありません)。
記事中には、ロッドのパワーを車のエンジンと馬力にたとえたこんなくだりがある。
「But horsepower is horsepower right? - wouldn't it be good to know how many you had under the bonnet?」。まさしく!
文中に出てくるロッドの評価システムを開発したのは米国の元化学者であるハンナマンさん。20年ほど前にアメリカの専門誌でも紹介されていて、定義上も正確で、結果は本質的に相対的であることが証明されている。
意外なことにも、このメソッドは日本ではほぼ認知されていないようだ。2023年2月現在、関連するキーワードを入力して日本語で”ググって”も、該当するものは一つも出てこなかった。
過去に国内の専門誌などで報道されたかどうかはわからないが、これには少し驚いた。私といえば、遅ればせながら5年ほど前に知って以降便利に使っている。いろんな”気づき”がある。
マクニールさんも記事中でふれているが、筆者もこのやり方が、完全無欠なロッドの評価方法だとは思ってはいない。テストは総じて静的だが、フライキャスティングや釣りはおしなべて動的だ。それに、リカバリースピードや自重も、ロッドの”感じ”に大きく影響している。
しかしながら! 評価によって数値化された相対的かつ客観的なデータは無条件に、パワーやアクションなどロッド固有のキャラクターを伝えてくれる。ラフなベースラインであれ、それは上級者にすら有益だ。時間には限りがある。(2023年2月)