毎年楽しみにしている釣りがこれ、盛夏のドライフライ・フィッシング。7月に入って気温が30℃を越えるような日が続くようになったら、鬱蒼とした森を流れる小さな渓や、広々とした、明るくて開豁な河原の中を流れる小さな川にどうしても行きたくなる。お相手は、オショロコマやエゾイワナ、そして、十勝では7月に解禁を迎えるヤマメたちだ。
ローカルの連中は「魚が小さくてつまんないしょー」と口を揃える。けれど、九州、そして東京を拠点にいろんな釣りをしてきたポロシリには、この繊細なライトラインのドライフライ・フィッシングが文句なしに楽しい。7月の声を聞く頃になれば、「そろそろ例の釣りの季節じゃないのー?」ってウチのゲストたちも言う。
いったん川に入ったら、次のスポットをめざしてどんどん上流に遡行する。汗をかきながら、投げて歩いて投げて歩いて……。もちろん、健脚の人だけが楽しめる釣りというわけじゃない。けれど、これは、やっぱり川歩きをも楽しむ釣りだ。
カーブを曲がると、濃い緑色に色どられた大きな淵が出てきたり、両岸が切り立った函を流れる深い瀬が出てきたり、ところどころに大岩を配している、太陽の光をめいっぱい受け止めた明るい瀬が続いたり、巨大な倒木が流れをさえぎるように横たわる場所にさしかかったり……。そう、この釣りは、あたりの森の中でいちばん低く一等深い場所を流れる、北国の川岸の景色を楽しむハイキングでもある。
十勝の源流域の渓なら、平野部が35℃の猛暑日になるような日でもへっちゃらだ。水温は真夏でも15℃以下。森を縫うように流れる小さな流れは川面の上には、雪の冷たさを含んだような涼しい風が吹いている。キラキラさんざめく流れに落ちた木漏れ日が綺麗で、日が暮れるまで何時間でもここにいたいと思えてくる。
ゆらりと震えるように流れ始めたドライフライを、一度ためらうようなそぶりでくわえそこなった後、あたりをキョロキョロ捜しているオショロコマのしぐさといったらどうだろう。
オショロコマ、エゾイワナ、ヤマメ。これらの魚たち、何より北海道自慢のネイティブだ。ニジマスの大ものねらいもいいけど、オショロコマだって大事にしましょうよ。もっと楽しもうよ。いつもそう思う。
米国F.F.のメッカともいえるイエローストーンに行ったらどうだ? かの地のネイティブであるカットスロートたち、大切にされているでしょう? マンチェスターにあるOrvis本社の裏を流れるバテンキルリバーに行ったみたら? ”小ぶり”なブルック釣り、当地の文化だし、人々に誇りがあるからこそ、川と魚たちは厳格なレギュレーションで守られてるでしょ?(同社ときたら……胸を張ってその土地の名を自慢するかのようにいろんな商品にBattenkillと命名してるじゃないか!)
人に自慢できるような大ものニジマスにこだわるのもいいけど、せっかくフライフィッシングやってるんだし、それだけじゃあもったいないなぁー、奥行きがないなぁーと思うのだ。
この釣りに使っているのは、8フィート以下のショートロッド群。使う頻度が高いレングスは6フィート半から7フィート半まで。
サオが短ければリーダーなどの仕掛け全体も短くなる。その分釣りは難しくなることが多いし、すべてに気を配って釣りをしないとすぐにドラッグがかかってしまう。
大切なのは、フライをデッドドリフトさせるための基本動作。日頃、ティペットの長さやロッドのレングスに頼りきった釣り方をしていると、これが予想外に難しく感じるはず。しぜん、頭と身体をすべて使って、フライフィッシングの基本にたちかえって、丁寧に真剣に遊ぶことになる。だから面白い。
至近距離から短距離の釣りがほとんどだから、バランスのとれていないタックルは使いづらいし、フッキングしてからの魚とのやりとりもつまらない。至近距離から近距離で使うラインの長さ(重さ)でもしっかり仕掛け全体を受け止め、フライやリーダー、ラインを確実にコントロールできるような、少ない”オモリ”でも「ちゃんと曲がる」部分がデザインされたサオで釣るのがけっきょくいちばん理にかなっていると思う。
そして、ここを詰めていくと、しぜん竹やグラスのサオになってくる。これは、お金の使いどころを捜している金満家の、嗜好品としての竹やグラスを差しているのではない。便利で、釣りがより面白くなるといった、純粋に機能性を求めた結果としての話。もちろん! 調子さえ”見合った”サオなら素材はグラファイトでもよいし、安いものでいい。要はちゃんと機能して、楽しく遊べればよいのだから。
中には、大型ニジマスの釣りに使うようなサオで”小ぶり”なオショロコマやエゾイワナを釣って「面白くないしょー」と結論づける人がいるけれど、はたしてどうだろう。そりゃー、大マス用のサオで釣ればひとたまりもないに決まってる。アワセと同時に相手は吹っ飛んできちゃうじゃないか。こういう遊び方は素寒貧(すかんぴん)というもの。無粋だ。
タナゴにはタナゴ釣りを楽しむのに適した道具やセオリーなど、文化全体が長い歳月をへて形づくられている。私たちの釣りが漁ではなく遊びであるいじょう、豊かな自然があることに胡座(あぐら)をかいて乱暴な釣りをするのは、ひじょうに貧しいことだと思う。
ポロシリは、どんな意見があるにもにかかわらず、必要いじょうの量を釣る「新子ヤマメ」釣り文化に異を唱えるものである。余った食べものをお金を費やして処分しているような時代に、大量の稚魚や幼魚を釣り、他人さまにまで”おすそ分け”するなんてどうかしてる。アナクロだ。
神経質なライズに出会ったりした時を除けば(これはこれで小躍りしちゃうのですが)、人間がフライを追うのに都合がよい10番くらいのサーチングパターンを結んで釣り上がる。
ギリギリまで慎重に距離をつめて(ここが肝心だ)正確にキャストし、あらかじめ目論んだ、最低限の長さのドリフトで、1キャストめでフライを口にさせたい。そして、ラインスピードはできる限り上げたくない。
フライサイズに合わせ、距離に合わせ、ロッドの調子に合わせ、……。そんなこちらの要望を満たしてくれるフライラインを使っている。同じ規格のフローティングラインでも銘柄によってテーパーや重さは違う。とくに至近距離の釣りではプレゼンテーションの質がおおいに変わるし、ここは要諦なのだ。
水温は低く水は清冽そのもの。季節によってはサイズ6~8番の大型カワゲラの羽化に出会うことも少なくない。使うフライサイズや空気抵抗などを考えれば使うべきラインの番手は決まってくるしそれが定石だが、最終的なバランスは、ラインだけでなくサオの調子と相まって決まる。それに、欲をいえば魚を掛けてからの釣り味も損ないたくない。
まぁー、このあたりこそ「2番のこんな調子のサオにこの4番ラインを乗せたらどうだ?」なーんて、あれこれ組み合わせて自由に遊べる”旨み”の核心部分。釣り道具選びにかんしていえば、いわば”着せ替え遊び”の煩悩がまた、楽しいのであります。
とり回しを重視して、リーダーやティペットの長さは最低限。そのかわり、魚のついている場所ごとに、立つ位置、着水させるラインの形、リーダーの形、フライの位置、それらの置き方や置き場所に徹底的にこだわって、1投めで決めるのが楽しい。魚を脅かすようなメンディングは最小限に、テンポよく釣り上がる。ここにこだわらなきゃ、面白みと釣果は半減してしまう。フックはバーブレスを使うのがマナー、そして、ティペットの長さに頼るのは、どうにもならない時の最終手段であります。
まるで箱庭のような、北国の森を流れる美しい川と無邪気なマスたち。長期的な目で見れば、こういうネイティブの釣りこそ、この土地の文化になるんじゃなかろうか。ひと夏でもこの釣りを楽しんでみれば、真剣にそう思えてくるのです。末長く、この楽しいドライフライ・フィッシングが十勝の川で楽しめますように。
タックルのセットアップのご相談や、使って楽しく有効なフライパターンなどについては、直接ポロシリまでお問い合わせください。